My name is...
「本日も晴天なり・・・か」
空を見上げれば雲ひとつないピーカン晴れ。
昼休みの校内放送の流れる中、1人ある場所へと私は向かう。
うちの高校には、校舎のはずれに古いバスケットコートがある。
かなり年代物のコートで、ゴールポストは錆びまくりだし、ゴールの網も破れてお情け程度についているくらいになっている。
そんな状態なので、今は部活や授業で使われることもなく、人が訪れることはめったにない場所だった。
いつだったか私がたまたまそこを訪れて、彼に出会った。
彼のことは、バスケット部のレギュラーで校内でそこそこ名の知れた人だったので、顔くらいは知っていた。
それ以来、いつも私は、彼がドリブルしたりフリースローの練習をしたりするの隅っこでただ見ていた。
たまにその小気味よいボールの弾む音をBGMに本を読んだりもしていた。
私たちは、言葉を交わすことは極稀で、ただお互いがその場を共有している・・・その場所に『居る』だけだった。
そして、今日も私はここに来た。
彼は、いつもどおり、上着を脱いでシャツの袖をまくり、力強い腕でボールを操っている。
やってきた私にただ一瞥するだけで、動作が止まることはない。。
いつものことなので、私も気にもせず、座る場所を探す。
夏も近く日差しが強いので、私はそばにある木陰に座ることにした。
見ていると、どうやら今日はフリースローを主に練習しているらしい。
一定の動作でボールを投げては拾い、投げては拾っている。
私はただそのさまを見ていた。
30分の昼休みの残り10分というところで、私はある思いにかられた。
「ねぇ」
スリーポイントシュートの練習に切り替えたのだろうか。少しゴールから距離を置いた彼に話しかける。
「・・・なに」
彼の投げたボールが綺麗な弧を描き、シュっと音を立てて、ものの見事にゴールに吸い込まれていく。
「もし・・・もしさ、私が死んだら・・・どうする?」
一瞬の静けさの中を私の声だけが支配する。
だけど、それはすぐにゴールから落ちたボールの弾む音によって壊される。
シュートした体制でとまっていた彼が、ボールの音にはっとしたように動き出す。
彼は何も言わない。
ただボールを拾い、元の場所に戻り、またシュート体勢をとる。
「ねぇ」
無視されたのかともう一度声をかける。
「・・・どうもしない」
返ってきたのはそっけなのない返事。
それともこれもまたそっけのない質問の答えだった。
「ただ、・・・忘れるだけだ」
何を期待していたんだろう。
なんだか無性に恥ずかしくなってきて、この場から立ち去りたい思いで思わず立ち上がる。
そんな私を見てか、彼がボールを投げるのをやめて振り向いた。
それは、ひどくめんどくさそうに、だけどなぜか今までに見たこともない表情で。
「名前も知らない奴のことなんて、覚えてられないだろう?」
「・・・そだね」
思わず俯いてしまったけれど、校舎から流れてくる予鈴の音色に顔をあげる。
「それじゃ・・・また」
『また』と自分で言った言葉が酷く心に突き刺さる。
たぶん、私はもうここにはこないだろう。
目頭がなぜか熱くなってくる。
「・・・わっ」
ふいに強い力にひっぱられ思わずよろめいた。
校舎に戻ろうとする私の腕が掴まれたのだ。
掴む手の主を見上げるとひどく真面目な顔がある。
「わかんない?」
ただぼそりとつぶやかれる。
「何が?」
「さっきの言葉の意味」
「・・・さっきの・・・?」
さっきの言葉の意味・・・なんだろう。
眉根を寄らして必死に考えこむ私に痺れを切らしたかのように彼がいった。
「名前・・・名前教えろよ」
「へ?」
「・・・いつまで笑ってんだよ」
意味をやっと理解して、思いっきり笑い出した私を彼が小突く。
だけど、その顔はいつものしかめっつらじゃなくて、耳まで真っ赤な照れた顔だ。
そんな彼に私は、笑顔でひとさし指を突きつけて自己紹介をはじめたのだった。
「いーい?しっかり覚えておいてね。私の名前は・・・」
- fin -
<あとがきというなのいいわけ>up2003.4.16
「もしも私が死んだら?」シリーズ(何)
最初はカップルの話でもっと男の子(というか男の『人』)がかっこいいのですが、書いてる途中で高校生の青春話になってしまいました(苦笑)
この話を書く時に心がけたのは、一切キャラの名前を出さないということ。
ってか、キャラ名考えてません。考えちゃうと絶対出しちゃうんで・・・結構うまいこといったかなと思います。
当初の予定だったカポバージョンのはそのうち書いてアップします。
そっちのが私的に言いたいことというか書きたい台詞があるので。
うーん、久々にしっかり考えて書いてすっきり(*´▽`*)